寺島実郎の世界観 第8回 「自動車社会の変化と未来」

2013/05/29

 「就職を機に世界と人生を考える!BS寺島月9トーク」内の「寺島実郎の世界観—今知っておくべきメガトレンド」のコーナーで寺島が語った内容をご紹介します。第8回テーマは「自動車社会の変化と未来」です。
 
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 今回のテーマは「自動車社会の変化と未来」です。考えてみると、私たちの世代、つまり戦後生まれの先頭を生きてきた世代にとって、自動車を持つということは大変な願望であり、車に対する関心が非常に強かったというのが青春時代のひとつの特色だったと言ってもいいと思います。ところが、今の若い学生も、若いサラリーマンの人たちも自動車に対する考え方が大きく変わってきています。背景には、日本の分配における日本人全体の貧困化ということが横たわっていると思います。
 
 過去15年間に日本の世帯あたりの所得は、年額で121万円減っています。つまり、ちょうど月10万円の所得が減ったということになります。実はその10万円というのが東京で車を持ったときにかかる月当たりのコストとほぼ同じです。駐車場代だけでも東京では5万円近くかかります。そのため、毎月の支払い、保険、ガソリン代など様々なことを含めて年間を通じて月に10万円程度かかってしまいます。そうなると、まず車は必要ないという生活にならざるを得ないといえます。
 このような理由で、例えばカーシェアリングや、車が必要なときにレンタカーを借りればいいという考え方の若者が非常に増えています。我々の世代では、例えばスカイラインが好きだとかという強いこだわりがあったのですが、モータリゼーションの世界が国内において大きく変わってきているということに気付かざるを得ません。
 
 次いで、この自動車社会を誰が、一体どのように負担するのかについて、問題が非常に複雑かつ深刻になってきていると言えます。例えば、今まで自動車社会を維持するために、ガソリン税から財源を確保していましたが、最近の車はご存知のように燃費の効率が非常に良くなり、また電気自動車によってガソリンをそれほど要さなくなり、ガソリンから税金を取るということに一つの壁が生じてきています。
 また、自動車重量税も車の軽量化、軽自動車化によって収入が期待できません。それから、一時、高速道路の無料化実験が行われました。高速道路は無料のほうが経済に活力を与えるのではないかとチャレンジがなされましたが、過剰に高速道路が混んでしまい、車社会そのものが機能不全に陥る事態さえ見えてきました。さらに、昨年末、トンネルの天井板が崩落するという事故が発生し、日本のインフラ投資が一巡し老朽化してきて、それに対して新たにメンテナンスのためにお金をかけざるを得ないという構造が明らかになってきています。つまりこういった自動車社会に関わるコスト全般を、どのような方法で負担していけばよいのかということについて、基本的に設計図を描き直さなければいけない状況になってきています。つまり、日本の自動車社会は大きな転機を迎えているのです。
 
 一時期日本は1,000万台近くの自動車を生産していましたが、一昨年の数字では国内での自動車販売台数は500万台を割り、421万台というかつてのピークの半分以下に自動車の販売台数が落ちてきています。そのような中で、日本の自動車社会をどう描き直すのか。例えば、ETCの義務化という議論が出てきています。強制の保険に入っていなければいけないのと同じように、ETCを全ての車に義務づけることで自動車社会を管理するコストがもの凄く安くなります。つまり、ゲートの所に人を雇っておく必要がなくなるということや、管理効率を高める新しい実験も可能となります。
 世界には様々な自動車社会を支える知恵があり、シンガポールなどの国は非常に興味深いです。シンガポールではETCが義務づけされているのですが、加えて、例えば今日走っていいのは奇数ナンバーの車だけ、明日は偶数ナンバーの車だけというルールにより自動車の走行量をコントロールすることで、自動車社会の効率性を維持する取り組みが行われています。そうすると、お金持ちは偶数ナンバーと奇数ナンバーの自動車の2台を買うことにつながり、結果的に自動車産業にとってもメリットがある新しい発想でのルールづくりが動いてきています。
 
 世界を見渡すと、世界全体の自動車販売台数は一昨年の段階で、7,730万台という数字がでていて、中国は1,850万台、アメリカが少し生産を戻してきて1,304万台、先ほど申し上げましたように日本が421万台で世界第3位となっています。そのあとにブラジル、ドイツと続き、最近ではインドが急速に伸びてきて一昨年の段階で329万台ですので、昨年限りなく400万台に近づいた、または越えていったと考えられます。つまり、世界全体ではモータリゼーションというのは一段とBRICsや発展途上国を中心に加速してきています。今世界の年間販売台数は約8,000万台ですが、間もなく世界の販売台数は1億台に迫り、それを越えていくと思います。そのような時代に向けて、日本の虎の子ともいえる自動車産業が、海外に生産立地を加速させ、高級車から軽自動車まで多様な自動車を生産し、さらには車に積み込む技術を集約し、ハイテク化を進めていく方向で、日本の基幹産業としての役割を今後も果たしていくのではないかと思います。日本の輸出の2割を自動車と自動車部品が支えてくれているわけですから、これを次のステップにどう展開していくのかが日本の経済、産業にとって課題になるだろうと思います。

就職を機に世界と人生を考える!BS寺島 月9トーク(BS12 TwellV)
第8回放送(2013年2月18日)より


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