寺島実郎の世界観 第6回 「大中華圏」

2013/04/30

  「就職を機に世界と人生を考える!BS寺島月9トーク」内の「寺島実郎の世界観—今知っておくべきメガトレンド」のコーナーで寺島が語った内容をご紹介します。第6回テーマは「大中華圏」です。
 
201304301305_2-300x0.jpg

 今回は我々が持つべき世界観、時代を見る重要な視点ということで、「大中華圏」について話をしておきたいと思います。
 
 2013年が始まり、今年の世界を動かす重要な要素は何かということに関し、どなたも問題意識を持っておられると思います。イギリスの『エコノミスト』という雑誌は、毎年末になると翌年の展望についてレポートを出します。2012年末にもThe World in 2013(2013年の展望)と題した本を出版しました。その中で、2013年の世界を動かす最も重要な要素の一つとして指摘しているのがアメリカと中国の関係です。
 
 2012年には、11月にアメリカでオバマ大統領が再選、そして中国も習近平新体制に移行するという出来事がありました。さて、この両国の関係がどうなるのか。まず中国・習近平体制ですが、習近平という人のこれまで歩んできた体験の中で注目すべきことがいくつかあります。特にアメリカとの関係においては、1985年に河北省の役人だった頃に、アメリカ・アイオワ州でホームステイ体験をしています。習近平はアイオワでのホームステイ体験を振り返り、たびたび発言をしていますが、ニューヨークやワシントンではなく、アイオワというある意味では健全なアメリカが残っている田舎で、勤勉で宗教心の熱い人たちが繰り広げているコミュニティを体験したことで、アメリカに対して相当にポジティブなイメージを抱いたことは間違いありません。以来彼は5回訪米をしていますが、2012年2月の訪米ではお世話になったアイオワの家まで訪ねています。
 
 また、習近平にはお嬢さんがいますが、現在ハーバード大学に留学中です。世の中では習近平親米派説があり、親米派というのはあまりに単純な決めつけだと思いますが、たしかに習近平がアメリカを見る眼の中に、アメリカの価値や存在についてネガティブではなく、かなり前向きでポジティブな捉え方をしているなというトーンが発言の中からも感じられます。
 
 一方、オバマ政権ですが、こちらは第一期の政権以来、米中経済戦略対話をスタートさせ、4年間で閣僚レベル会合に格上げして、毎年5月に北京とワシントンで10人以上の閣僚が行き来し、安全保障から産業協力まで対話を深めることを続けています。第二期に入ってさらにこれを深めてくるだろうと思います。つまり、ざっくりと言えば米中関係というのは、2013年に意外なほどまで密度の濃い交流を深めると思います。今回私がワシントンを訪れて感じ取ってきたことの中にも、例えばエネルギー分野では、シェールガスのタスクフォース協定が米中間で締結されたことに加えて、原子力分野でもトリウム原発という新しい原子力発電の仕組みに関する米中技術協力など、いろいろな意味でアメリカと中国との密度の濃い交流が動き出すのではないかと感じました。
 
 つまり、表面的な対立、あるいは米中覇権争いという捉え方で米中関係を捉えるならば、たぶん間違うことになるだろうと思います。日本人は、アメリカと中国が対立を深めてくれれば、アメリカの好意が日本に向かうだろうとの感覚で関係性を捉えがちです。日米連携で中国の脅威に向き合おうという感じさえあります。ところがアメリカと中国との交流は、我々が思っている以上に深いということを心のどこかに置いて向き合わなければならないテーマなのだろうと思います。
 
 そのような意味で、中国を捉える新しい視点として、2012年の12月末に『大中華圏』(NHK出版)という本を出版しました。英語で「Greater China」と言うのですが、中国を本土の単体の中華人民共和国だけと捉えず、中国と華人圏の中国、つまり香港、シンガポール、台湾という在外華僑、英語で言えば「Overseas Chinese」という人たちが活躍しているゾーンを有機的産業連携体として捉えるということが「大中華圏」という切り口なのです。2004年に岩波書店から大中華圏に関する本を出版しました(『大中華圏―その実像と虚像』岩波書店、2004年)。今回検証をしてみてつくづく思いましたが、「大中華圏」というのはかつては仮説の議論だったのです。ところが当時から今日までの期間に大中華圏、つまり中国、香港、シンガポール、台湾の中での交流人口、そして相互貿易、相互投資というものは驚くほど拡大し、密度の濃い交流を深めています。大中華圏が仮説から実体化してきているのです。さらに尖閣問題などに滲み出てきているように、大中華圏が政治的な意味さえ持ち始めています。
 
 そこで、この大中華圏という言葉を噛み締めながら、ぜひ問題意識を深めていただきたいと思うのです。特に北京オリンピック辺りから、極端な形で中国又は中国の指導部は大中華圏につながってくる「中華民族の偉大なる復興」、「中華民族の栄光」などという言葉を使い始めています。習近平政権スタート時の就任演説などにも「中華民族の偉大なる復興」という言葉が繰り返し登場しました。
 北京オリンピックの開会式において、世界の人類の4大発明は全部中国人によるものだというアトラクションが繰り広げられたことを思い出す方もいらっしゃるかと思います。紙も活版印刷も火薬も、そして羅針盤も全部中国人が作ったのだという驚くべきアトラクションが繰り広げられたわけですが、なぜここへ来て中華民族などという言葉を中国は極端に多く使い始めたのか。これは日本人としてしっかり考えておくべきことだと思います。
 現在我々が向き合っている中国という国、つまりは中華人民共和国は、中国の4,000年という長い歴史の中でも極端に特殊な性格を持つ国です。漢民族を中心にしながら、55の少数民族が多民族国家を形成しているというのは過去の中国ではあり得なかったのです。新疆ウイグルからチベットまで含む非常に大きなゾーンを統括する地帯として、中華人民共和国は成り立っています。また、世界には6,000万人と言われる華人・華僑という人たちが活躍しています。そのような人たちを睨んで、中華民族という言葉を使っているという意味があります。今まで中華人民共和国は、冷戦が終結するまでは社会主義という言葉で統括してきました。ところが冷戦が終結して20年が経ち、社会主義という言葉でグリップを効かせることが中々できなくなってきて、中国は明らかに統合の危機のようなものに直面していると言っていいだろうと思います。そういう中で中国を束ねる新たな概念・理念として、ことさらに中華民族という言葉を使い始めたのだということに気付かざるをえません。
さて、そのような中華民族という言葉を使い始めた中国、あるいは大中華圏が実体化し、政治化してきている局面の中で、このような存在に対し、日本はどうやって向き合っていくのか。これが非常に大きなテーマであるということ、そしてこの視界の中からネットワーク型で中国を捉えるということが新たな世界観をもたらすだろうということを私は感じています。
                                                                                                                             
就職を機に世界と人生を考える!BS寺島 月9トーク(BS12 TwellV)
第6回放送(2013年2月4日)より


 


Link