寺島実郎の世界観 第5回 「情報感度を磨くこと」

2013/04/17

「就職を機に世界と人生を考える!BS寺島 月9トーク」内の「寺島実郎の世界観-今 知っておくべきメガトレンド」のコーナーで寺島が語った内容をご紹介します。第5回テーマは、「情報感度を磨くこと」です。

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 「社会人の要件」ということについて私なりに考えてみたときに、社会に出て、自分の仕事を通じて一つのことを成し遂げている人たちが、一体どういう努力と、問題意識を持っていたのかということについて、「情報感度を磨く」というテーマで私の視点をお話しします。
 時代に対して、あるいは社会に対して強い問題意識を持って情報センスを磨くことが、いかに大切なのかということを私も思い知らされながら今日まで生きてきたと言えます。私自身が働き、また色々な活動を行ってきた三井物産という会社を例にとって話をします。
 三井物産もスタート時点はベンチャー企業でした。初代社長の益田孝が、外国人が支配していた日本の貿易を日本人の手に取り戻そうという問題意識に立ち、17人の人間を率いて明治9年にこの会社をスタートさせましたが、大変リスクの高い商売だったために三井は資本を出さず、債務保証という形でのスタートとなりました。27歳の青年は、日本の貿易チャンネルとしてこの会社を育てようと立ち向かったのです。
 益田孝が色々な仕事をしてきた中で、創業と同時に社内報を作りました。「中外物価新報」というのですが、実はこれが今の「日本経済新聞」の原点です。後に独立して日本経済新聞となったわけですが、27歳の青年がスタートさせた小さな企業に、世界の物価、世界の動向を伝えるための情報チャンネルが必要であるという問題意識でなんとも背伸びした話だと思いますが、新聞を作ったのです。彼自らが執筆していたという記録が残っていますが、彼の足跡を調べてみると情報に対して非常に深い問題意識のある人間だったのだということを感じます。
 
 さらに、戦後GHQによって解体された三井物産を再建した立役者が日本貿易会を作った水上達三氏であるというのは、戦後を生きてきた人たちにはよく知られた話だと思います。水上氏は私が1973年に新入社員として三井物産に入った頃には既に相談役で、水上氏の下働きのような形で若干の仕事をした思い出もありますが、とてつもなく情報感度の高い人だと感じたことを思い出します。
 彼の足跡を調べていて気付くことがあります。東京商大、現在の一橋大学を卒業して三井物産に入った水上氏が最初に配属されたのが群馬県の高崎派出所で、6年間の新入社員時代を彼はそこで過ごします。大概の人なら国内の支店どころか派出所のようなところに置かれて腐ってしまうだろうと思いますが、彼の発想は逆なのです。派出所だからこそ若手でも本社から送られてくる多くの書類を読むことができ、自分は食い入るようにそれを読んだということを語っています。
 さらに驚くことがあります。彼は、敗戦を三井物産の北京支店長代理の立場で、北京で迎えます。その中国で収容所に入れられ、結果的には1,350人の引揚者を率いて団長の立場で日本に戻ってきます。収容されている2年近くの間、彼は何とか短波放送が聞けるラジオを手に入れてインドやアメリカの本土から送られてくる短波放送を聞いて、敗戦後の日本、自分の故郷がどうなっているのかということに一生懸命に耳を傾けていたのです。そういった情報を踏まえ、団長として1,350人の運命を背負ってなんとか交渉して日本に戻ってきたのです。そういう彼の背負った様々な体験、その中で彼がどういう行動を取ったのかということを調べていて感じるのは、情報感度の高さ、情報に対して向き合う本気さです。そして、必ずしも益田孝や水上達三という人たちだけでなく、時代に立ち向かって新しいビジネスモデルを作り仕事を成し遂げた多くの先人の足跡を辿ると、まず間違いなくいえることは、情報に対する卓抜なセンス、真剣に情報に向き合おうという態度があったということに我々は気付かざるを得ないと思います。
 
 情報の世界を生きてこられたある三井物産の先輩が、私にこう話してくれたことがあります。「情報というのは、『情けに報いる』と書くんだ」と。その言葉を聞いて私はどきっとしました。情報というのは無機的なものではなく、人間社会を流れている血とかその血流のようなものとして受け止めなければいけないもので、つまり人間の温もり、人間的な力をもって向き合わないと情報など得られないのだと。
 人の心を動かすような情報活動というのは本当にそういうことなのだと思います。「情報は情けに報いる」というのは、「この人には一刻も早く教えてやろう」とか、「この人には本当のことを知らせてやろう」と思うような、受け手サイドにひたむきさや熱意など何か人間的な力がなければ本当の情報というものには向き合えないということを、私はこの先輩の一言を噛みしめながら思い出すことがあります。

                                                                                                                     
 就職を機に世界と人生を考える!BS寺島 月9トーク(BS12 TwellV)
 第5回放送(2013年1月28日)より

 


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